オピニオン

トップページ > 病院のご案内 > 病院について > オピニオン > #89:消費税の減税・廃止について

#89:消費税の減税・廃止について

この文章は2025年10月に発行された病院広報誌79号に書いた文章です。

消費税の減税・廃止について

院長 加藤 奨一

参議院選挙でどの野党も、消費税減税・廃止や社会保険料減額を公約に掲げていました。こうした報道を見るにつけ、その代償として、医療、介護、年金など国民が受ける社会保障サービスの質が低下し、提供量も減少するかもしれないことを一切話そうとしない政治家の姿勢に疑問を感じました。なぜなら、消費税は社会保障費確保のために創設され、徐々に税率がアップしてきたものだからです。赤字国債解消のためには、25~30%くらいの消費税率が必要だと試算されています。今と同程度以上の医療サービスを受けるためには、高齢化と医療の進歩によって国民総医療費は増えざるを得ません。医療費の国民負担(消費税、社会保険料)を減らすなら、公的負担も減らさざるを得なくなるかもしれません。そうしたことを言う政治家は皆無です。そんなことを言ったら票が取れないからでしょう。マスコミも何も言いません。
1983年に時の厚生省保険局長吉村仁氏が「医療費増大がやがて国を滅ぼす」と『医療費亡国論』を打ち出して以来、「医療費抑制策」(=病院の収入抑制策)が40年以上続いています。その後の医療政策は、すべてここから生まれています。

以前から病院病床削減や病院集約化が盛んに言われていますが、国民は本当にそれでいいのでしょうか。地方では、近くに救急医療や高度医療を受けられる病院がなくなり、高度医療を受けるには、2時間も3時間もかけて遠方の病院を受診しなければならなくなります。刻を争う救急医療を受けるにも病院到着まで時間がかかり、命を落とすこともあるかもしれません。地元でも標準的ながん治療を受けることができたのができなくなり、集約化した大病院のがん患者さんの受け入れキャパシティーがオーバーすれば、迅速に精密検査を受けたり、治療を受けたりできなくなるかもしれません。

公的負担の財源(消費税、社会保険料)を減らし、自己負担率も上げず、自費診療枠も拡大せず、公的医療を維持するのであれば、医療の質は落とし、提供量も減らさなければいけなくなります。反対に、日々進歩する医療の恩恵を国民が十分に受けるためには、国民負担(消費税、社会保険料)を増やすか、自己負担率を上げるか、自費診療枠を拡大するしかありません。

病院の経営状態は既に限界を越えています。「総医療費が増えても、国民負担(消費税、社会保険料)は増やせないので、病院に医療の質と提供量を担保させつつ、病院へ支払う総区療費を抑制する」という政策は、もうそろそろ止めませんか。

バックナンバー

↑To TOP