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#88:『高額療義費制度』騒動で思うこと

この文章は2025年7月に発行された病院広報誌78号に書いた文章です。

『高額療義費制度』騒動で思うこと

院長 加藤 奨一

『高額療養費制度』とは、同一月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が、後で払い戻される制度です。医療費が高額になることが事前にわかっている場合には、「限度額適用認定証」を事前に提出すれば、限度額以上の支払いを請求されずに済みます。

70歳未満と70歳以上で低所得者に対し多少の違いがありますが、おおまかにいうと、自己負担限度額は、年収により、住民税の非課税者など:35,400円、370万円未満:57,600円、370万~770万円:80,100円、770万~1,160万円:167,400円、1,160万円以上:252,600円です。

2024年12月25日、厚生労働省は、この『高額療養費制度』の見直しを発表しました。2025年8月~2027年8月に、3回に分けて自己負担の上限額を引き上げ、平均的な年収である約510万~650万円の場合、上限額は現行の月約8万円から約11万3000円に増えるとの内容でした。

この発表に対し、「全国がん患者団体連合会(全がん連)」が猛反対し、マスメディアも盛んに報道し、結局、石破首相は上限額引き上げの凍結を決めました。

がん患者さんの金銭的負担が増え、がん治療が受けられなくなることは私も反対ですが、日本の総医療費増大に対する『医療費抑制策』についてもきちんと国民的議論をしてもらいたいと思いました。「総医療費が増加しても、国民負担は増やせないので、病院へ支払う医療費を抑制しよう」という政策を日本では40年以上続けています。『医療費抑制策』イコール『病院の収入抑制策』ですので、材料費、光熱費、人件費などの増加分を売り値(医療費)に転嫁(値上げ)できない病院は、物価高騰が続く中、昨年度は3/4以上の病院が赤字になりました。これが何年も続けば、一般企業と同様、病院は倒産します。その地域から病院がなくなるのです。

医療には「高福祉、高負担」か「低福祉、低負担」のどちらかしかありません。「高福祉」を望むなら、色々な形の国民負担は増やさざるを得ません。所得税、住民税、消費税などの税金や健康保険料などです。その中で、がん患者さんのような「弱者」を守るしくみも考えなければいけません。非常に難題ですが、病院の経営状態は既に限界域を越えています。病院がなくならないように、「高福祉、低負担」を望むのはそろそろやめませんか。

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