#85:病院建築費高騰と民間病院存続の危機
この文章は2024年10月に発行された病院広報誌75号に書いた文章です。
病院建築費高騰と民間病院存続の危機
ご存じの方もいると思いますが、私の母校の東京医科歯科大学は東京工業大学と合併し、今年10月から「東京科学大学」という大学に生まれ変わります。
その母校の、私が所属していた肝胆膵外科の教授が3月に退任され、その記念式典が先日開催されました。久しぶりで全国に散っている同門の先生たちとお会いし、情報交換をする機会がありました。中でも、病院長や副院長をされている先生方は皆、他の病院の経営について関心があり、どうしても集まってしまいます。いくつかの病院がこれから数年かけて病院の建て替え計画をされていました。その総工費試算を聞いてびっくりしてしまいました。病院建築総工費の概算は「1床あたりいくら」に病床数を掛け算して試算するのですが、15年前は1床あたり2,000万円だったのが今は1床あたり1億円に跳ね上がっているそうなのです。話を聞いた2つの病院は400床くらいの病院ですので、400億円かかることになります。ただし、これは純粋な建築費用のみで、医療機器はこれとは別にかかります。急性期病院の医療機器は1床あたり1,000万円と言われていますので、40億円がプラスされ、設計・管理費は建築費の10%くらいですからさらに40億かかり、総費用は480億円になります。
この2病院は公立病院ですので、おそらく自治体がかなりの金額を負担するのでしょうが、それでも負債返済計画を作成するのが大変困難だとおっしゃっていました。
400床の急性期病院ですと、年間収入は160億円以下でしょうから、利益率が3%だとして、年間の利益は4.8億円で、すべて返済に回したとして、80億円を自己資金、400億円を借り入れるとすると、返済に83年かかります。民間病院だと法人税を利益の1/3くらい取られるので、返済財源は毎年3.2億円以下になり、返済に125年かかります。現実的にはこれから民間病院は病院の建て替えは不可能だということです。
今の診療報酬制度は、日々の診療で赤字にならないギリギリのラインで設定されています。7割の病院が赤字で、黒字病院の利益率は2~3%です。全面建て替えは50年ごとかもしれませんが、さまざまな医療機器の更新や設備の更新は10年前後にやってきます。毎年毎年、数億円の費用がかかります。そうした費用のことは診療報酬制度ではまったく考慮されていません。このままだといつの日か、日本には民間病院はゼロになるのではないかと思いました。