#84:「ベースアップ評価料」という奇策
この文章は2024年7月に発行された病院広報誌74号に書いた文章です。
「ベースアップ評価料」という奇策
診療報酬改定は原則2年に1回行われ、今年はその年にあたりました。日本では少子高齢化による医療費の増加を抑えるため、長年「医療費抑制策」(=病院の収入抑制策)が続いており、病院経営は年々厳しくなっています。職員給与を十分に上げることができない病院がほとんどです。診療報酬のマイナス改定や超低率プラス改定が繰り返されてきたことが原因です。
医療従事者は今も不足しており、他業種との求人競争に勝つためには、当然処遇を良くしなければいけないのですが、それも叶わず、人材不足が解決しません。今回、政府は、医療従事者給与のベースアップ分を診療報酬上の加算に付けるという制度を作りました。2024年度は2.3%以上、2025年度は2.0%以上のベースアップを想定していますが、その後の制度継続は明言していないので、今まで繰り返し「はしご外し」をされて懲りている病院は、乗るか乗らないか、悩んでいます。しかも、一般企業の平均賃上げ率、大企業5.58%、中小企業4.66%に比べると半分以下です。中途半端な賃上げ率です。区療従事者に対する理解の欠如は相変わらずです。
本来、十分な収入を病院が得て(診療報酬が十分に上がって)、各病院がその中で工夫して職員給与をアップするのが正常な姿のはずです。「奇策」と言わざるを得ません。
一昨年度あたりから日本も物価上昇が続き、30年ぶりにインフレ基調に入りつつあります。しかし、病院の唯一の売り値である「診療報酬」改定は0.88%にとどまり、ベースアップ評価料の原資に0.89%当てられているので、実際にはマイナス改定となっています。
インフレ基調に対応するにはおそらく4%くらいのプラス改定が最低必要だったと思います。
ただ、医療従事者には使命感があり、どんなに首を絞められても、いじめられても、医療提供体制維持のために頑張りますので、「なんだかんだ言ったって、病院は大丈夫じゃないか」という印象を持たれることが続いています。
締め付け、「病院いじめ」に耐えられなくなり、全国で病院の倒産が多発し、国民が十分な医療を受けられない状況になって初めて「病院経営はそんなに大変だったんだ。我々の負担が増えても、病院を存続させるために、診療報酬を上げよう」という世論が生まれるのではないでしょうか。そんな事態にはならないことを祈るばかりです。