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#80:新型コロナ対策と「ヒポクラテスの誓い」

この文章は2023年7月に発行された病院広報誌70号に書いた文章です。

新型コロナ対策と「ヒポクラテスの誓い」

院長 加藤 奨一

新型コロナウイルス感染症は5月8日に感染症法上の2類相当から5類へ扱いが変わりました。2020年1月から続いた新規感染症騒ぎもこれで一段落するのでしょうか。

今回の一連の騒動で、医療政策、医療行政と医師の医学的判断との関係について思うことがありました。最初の頃は日本政府の対応は他国と比べて後手後手でした。他国ではロックダウンが盛んに行われていた頃、日本では緊急事態宣言を出すことすらなかなかできませんでした。憲法上の制限などもあるのでしょうが、こうした緊急事態における日本の脆弱性が露呈した形でした。また、ワクチン接種開始に伴い、国として他国よりIT化が遅れていることも明らかになりました。反対に、後半は他国では早々と季節性インフルエンザと同等の扱いになっても、日本ではなかなか行動制限が緩和方向に進みませんでした。他国より1年以上遅れて、さまざまな制限が徐々に緩和され、5月8日をもってコロナ前とほぼ同じ状態になりました。

こうした中で、医師が構成員となるいくつかの検討委員会が作られ、その意見を聞き、それに基づいて政府が判断をするということでしたが、この検討委員会における政府に対する医師の答申は、政治的意図に影響されていて、純粋に医学的見地に立った結論ではないように思いました。最終的には政府が政治的判断をすることは間違っていませんが、医師の役割は、政治的な見地には影響されず、あくまでも専門家として純粋に医学的判断をすることだと思います。毎回少し違和感を持ちながら報道を見ていました。

一方、政府の役割は、医師という専門家の意見を参考に、医学的な判断そのままではなく、他分野への影響も考えつつ総合的に判断し、国として最も良い方向性を示すことです。世論、民意、というより、マスメディアが誘導している国民側の空気をあまりにも気にしすぎて政治的判断がなされる傾向が強かったように思います。PCR検査やワクチン接種について特にそうした傾向が強かったと思うのです。

“医学の父”と称される古代ギリシャのヒポクラテス(紀元前5~4世紀)が唱えた「ヒポクラテスの誓い」を元に、世界中の医師に対して規範を謳っている「ジュネーブ宣言」でも、医師としての職責には政治的意向への配慮が介在することを容認しない、と宣言しています。そんなことを感じたこの3年半でした。

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