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#73:医療崩壊の元凶「医療費抑制策」

この文章は2020年10月に発行された病院広報誌63号に書いた文章です。

医療崩壊の元凶「医療費抑制策」

院長 加藤 奨一

新型コロナウイルス流行が続いています。新型コロナウイルス受け入れ病院のみならず、非受け入れ病院までも全国のほとんどの病院で経営逼迫が続いています。ほとんどの病院で4~6月の収支が赤字となり、職員に対する夏季賞与が減額されたり不支給になったというニュースがたくさん流れていました。
東京女子医科大学病院の夏季賞与不支給、それに伴う看護師の大量離職希望のニュースも大々的に取り上げられていたので、皆さんもご存知だと思います。

ただ、こうしたニュースを見ていて、「根本的な問題が報道されていないな」と思いました。病院の経営逼迫は一病院の特殊な問題ではなく、日本の全ての病院が抱えてきた、長年にわたる国策「医療費抑制策」による経営圧迫が元々ベースにあったために、今回の経営逼迫に繋がったということが報道されていません。
新型コロナ前でも、病院の6割が赤字で、黒字病院の利益率は1-2%でした。黒字病院でも収入が少し減れば、すぐ赤字に転落します。こうした病院の元々の収益構造に大きな問題があるのです。

通常の企業活動では、10%程度の利益率がない事業は事業とはいえないというのが普通です。病院では各種の高額な医療機器を定期的に買い換えなければなりません。何億円もする医療機器も何十年も使えるわけではなく、10年前後で部品も製造されなくなり故障時の修理も不可能になるので、新機種に買い換えなくてはいけません。また、医療の質と安全を担保するために多くの職員が必要です。固定費である人件費率が50%を超えている病院が多いと思います。

こうした支出を考えると、病院の収入が少な過ぎるということが大きな問題なのだと思います。病院収入のほとんどは「診療報酬」です。国が決めている法定価格です。病院が得られる診療報酬額の総額が少な過ぎるということが問題だと思います。現状の1.1倍以上は必要でしょう。
しかし、こうしたことを病院経営者が言うと「国民の医療費負担が増える」「社会保障費が増えて、国が滅びる」という反対意見が必ず出て、何の対策も講じられずにきました。
病院の診療費のあり方を、国全体で議論していただきたいと思います。

新型コロナウイルス収束には2、3年かかるかもしれません。
このまま病院の収支状態を放置しておくと、日本中から病院が次々と消え、本当の「医療崩壊」になります。

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