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#72:もう一つの医療崩壊

この文章は2020年8月に発行された病院広報誌62号に書いた文章です。

もう一つの医療崩壊

院長 加藤 奨一

*5月26日、朝日新聞「私の視点」に掲載された投稿文(原文)

新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るい、盛んに「医療崩壊」という言葉が使われている。今回の医療崩壊は、長年続いてきた国の医療費抑制策も大きな要因となっている。この政策のため、病院は高額医療機器や医療資材の備蓄を絞ってきた。
また、一般病床が多すぎることが医療費の増大の原因であるとされ、国は一般病床を減らすよう、各病院に求めてきた。

しかし、不幸中の幸い、一般病床の削減はどの地域でも思ったようには進んでいなかった。新型コロナの患者の多くは一般病床に入院して治療を受けているが、国の求めるような削減が進んでいたら、今回の医療崩壊はさらにひどいものになっていたはずだ。

病床数をただ「効率、効率」と言って削減するのではなく、こうした非常事態が起こった場合の安全策として、余裕を持って保有しておかないといけないということが分かっただろう。だが厚生労働省はこうした医療政策を採っておきながら、舌の根が乾く間もなく、召し上げようとしてきた一般病床を再開するよう通達を出した。さすがお役人だ。
また、現在医師の「働き方改革」の議論も進んでいるが、こうした非常時にはどうするのか。患者がどんなに重症化しても、規制の範囲内の労働しか本当に認めないのか。今回のことをきっかけに、実態に合わせて制度を設計し直してもらいたい。

今回の医療崩壊が深刻なのは、患者の受け人れ態勢だけでなく、病院経営にもおよんでいる点だ。患者が受診を控え、医療機関も院内感染防止の観点から診療を縮小している。ひとたび院内感染が発生したら、最低2週間はすべての新規患者の診療が休止となる。収益を自費診療である健診部門の収入で補填している病院も多いが、健診を休止せざるを得ない病院も多く、収益悪化が加速している。
もともと60%以上の病院は赤字で、黒字の病院でも1~2%の利益率しかない。ほとんどの病院の人件費率は50%以上にのぼるが、日々感染リスクと直面している医療従事者への給与カットはできない。当然利益は大幅に下がり、ほとんどの病院が大赤字になるだろう。

緊急事態宣言後、各都道府県は緊急事態措置を出し、休業した企業には「協力金」という名目で補償金を給付する。病院に対しても、何らかの支援金が必要ではないか。そうしないと、流行が1年も2年も続いた場合、日本の多くの民間病院が倒産してしまう。するとさらに病床が減り、医療崩壊が進む。

ぜひ政府には、病院に対する経済的支援策を実行してほしいと切に望む。

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