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#69:医療と医療周辺業界

この文章は2019年10月に発行された病院広報誌59号に書いた文章です。

医療と医療周辺業界

院長 加藤 奨一

今月から8%→10%へ消費税率が引き上げられました。4月号の広報誌にも書きましたが、復習します。
一般の商取引では、小売業者は卸業者などに消費税を支払い、その分を小売価格に上乗せし、消費税は最終消費者が負担しますが、保険医療では最終消費者である患者さんに対して消費税は課税されません。
しかし、医療機関が診療に必要な薬剤や医療器材を購入する時には納入業者に消費税を支払います。この消費税を患者さんや保険者に転嫁することはできず、医療機関が負担します。

このため、消費税率が上がる時には、医療機関の消費税負担を補填するために、特別の診療報酬改定(消費税対応改定)を行うこととなっています(消費税導入時の1989年度、消費税率引き上げ時の1997年度、2014年度)。2014年度(5%→8%)の消費税対応改定が適正であったかどうかの影響調査時に不正統計がありました。今回は厚労省の適正な対応を望みます。

診療報酬とは、平たく言えば「医療の『価格』」です。これを国が管理し決めています。医療機関の収入は100%国が管理しているということです。各医療機関の裁量権は、『価格』のついている『医療』の種類と組合せ、総量にしかありません。一方、支出の方は、製薬会社、医療機器・資材メーカーヘお支払いする購人費(「原価」)、その他施設運営に関わる諸費用(「物件費」)と職員にお支払いする給与・賞与(「人件費」)で構成されます。

「薬価」という薬剤の価格も厚労省が決めていますが、納入価格は薬品納入業者と医療機関との交渉で決まります。「原価」や「物件費」は、「営利企業」である「医療周辺業界」へ医療機関がお金をお支払いすることで形作られます。ここに「収入は公定価格で国が決定」「支出は市場経済に任され、民間業者との取引」というアンバランスな関係が成り立ちます。

「医療費抑制策=医療機関の収入抑制策」が国策となっていますから、医療機関の経営が困難を極めるのは自明の理のように思います。
「医療従事者が毎日、血と汗のにじむような想いをして、患者さんたちからいただいている医療費」が、医療従事者の労働に対する対価として十分に還元されずに「医療周辺業界」の”儲け”として流れていくということに、何か釈然としない思いを抱いてしまうのは私だけでしょうか?

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