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#61:病院崩壊

この文章は平成29年10月に発行された病院広報誌51号に書いた文章です。

病院崩壊

院長 加藤 奨一

先日株式会社幻冬舎メディカルコンサルティングという出版社が今年5月に出版した「病院崩壊」という本を読みました。尼崎中央病院理事長・院長の吉田静雄先生という方が書かれた本です。

私がこのオピニオンで言い続けていることと同じことがたくさん書かれており、共感を持って読みました。

進む高齢化で社会保障費が膨張し続けていることは皆さんもご存じだと思いますが、毎年医療費の増加を抑えるためにさまざまな施策がなされ、病院はそれを実現することを要求され続けています。

全て「医療費抑制」が大前提になっており、ここに「病院の提供する医療の質と安心・安全の向上」が加わります。「医療費抑制」といえば聞こえはいいのですが、これはイコール「病院の得る収人を減らす」という政策に他なりません。反対に、「病院の提供する医療の質と安心・安全の向上」には支出の増加が不可欠であり、ここに今の病院経営者の困難があります。

幸い地域医療を支えている比較的大きな急性期病院には公的病院が多いため、収支が赤字なら税金が投入され、診療が継続されていますので、国民には被害は及びません。公的病院で収支が黒字である病院を探すのは現在とても困難だろうと思います。

ただ、本来なら「診療報酬」として病院が得る収入だけで収支が黒字にならなければいけないはずで、病院に対する今の「診療報酬」の価格設定が、病院が診療を継続するためには全く不十分であるということになります。公的病院に対する補助金を全国で合計すると1兆や2兆は下らないといわれています。これがなければ、多くの病院が診療を続けることができないわけで、現実的には日本の病院医療は既に崩壊しています。

厚労省がそんなデータを出したら、診療報酬大幅プラス改定が必要だということになり、「医療費抑制」を主張できなくなるので、口が裂けても言えませんし、マスコミもまるで箝口令が敷かれているかのように沈黙しています。

こうした環境でも民間病院はエ夫に工夫を重ね、なんとか細々と収支を黒字にしていますが、剰余金が少な過ぎて、高額医療機器を買い換えたり、建物の増改築を行ったりする資金を確保することが困難になっています。

そのうちに公的病院の収支赤字を自治体が補填できなくなり、診療を続けることができないという事例が日本中で発生するかもしれません。そうなった時初めてマスコミも騒ぎ始め、国民にも「病院崩壊」の現実が知れ渡るのだろうと思います。

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