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#56:消費税率引き上げ再延期の憂欝

この文章は平成28年7月に発行された病院広報誌46号に書いた文章です。

消費税率引き上げ再延期の憂欝

院長 加藤 奨一

この原稿を書いているのは6月6日です。
2015年10月に予定されていた8%から10%への消費税率引き上げは2017年4月まで1年半延期されていましたが、2019年10月までさらに2年半再延期することが決まりました。6割以上の国民が評価していますが、私は喜べません。

国の借金は累計で1,000兆円を超えており、今も毎年多額の赤字国債を発行しています。そして、その原因が年金、医療、介護などの社会保障費の膨張であるとされ、特に医療は固から目の敵にされています。

現在、日本で進行中の「少子高齢化」は、団塊の世代が75歳以上の「後期高齢者」となる2025年にピークを迎え、その時の医療需要が増加し、国民総医療費も増大するため、医療の「2025年問題」と言われています。厚生労働省は、2025年に向けてさまざまな「医療費抑制」策を打ち出し、そうした施策が昨年度から既に始まっています。

入院医療・入所介護から在宅医療・在宅介護へシフトしようという「地域包括ケアシステム」、一般病床を削減し、回復期病床や慢性期病床に転換、病院の全病床数をも削減しようという「地域医療計画」、看護師が多く入院基本料が高い病床を、看護師が少なく入院基本料が安い病床へ転換させようという、今年4月の診療報酬改定で、決まった「7対1看護基準の厳格化」など、「医療費抑制」策は枚挙にいとまがありません。

「医療費抑制」策は、病院にとっては「収入削減」策です。そこにさらに医療の「安心・安全」のための新たな体制作りを求められ、また、医学の進歩にも対応するため、病院で備えなければならないもの、やらなければならないことが増えているにもかかわらず収入は削減するとし寸行政の方針により病院の収益(=収入↓支出↑)は減少していき、ついにはマイナスになっていきます。日本の病院の8割以上は赤字で、年々赤字病院率は高くなり赤字額も増え続けています。ただ、地域医療を支えている病院には公的病院が多く、国や自治体が巨額な赤字を補填してなんとか存続しているので社会問題になりません。

こうした経営環境の中で病院経営者は“知恵”を絞り、収益バランスをよくしようと悪戦苦闘していますが、消費税率引き上げ再延期によりさらなる「医療費抑制」策が取られることは必至で、病院経営者は憂穆な気分になっています。

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