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#52:「医療費抑制」という国策

この文章は平成27年7月に発行された病院広報誌42号に書いた文章です。

「医療費抑制」という国策

院長 加藤 奨一

日本は世界に類を見ない、もの凄いスピードで「少子高齢化」社会に向かっており、医療・介護・年金などの社会保障費が毎年増加し、国家財政が逼迫していることは、報道を通じてみなさんもご存じだと思います。中でも特に「医療」費が毎年増え続けることは財政赤字の“A級戦犯”のような扱いを受けており、今では日本の医療政策が決まる時の大前提はいつも「医療費抑制」です。医療費が抑制できることは全て“善”、医療費が増えることは全て“悪”です。

しかし、私のように病院長として病院の経営を任されているものにとって「医療費抑制」策は最大の“敵”です。なぜならば、「医療費抑制」策はイコール「病院の収入削減」策だからです。

また、医療の安心・安全を担保するためのシステム作りなど、病院が行政から求められているものは毎年増加し続けています。当然職員も増やさなければ実現できません。人件費という支出が憎えます。加えて、医療は年々進歩し高度化するため、薬剤や医療機器、医療機材の購入費も増え続けています。

いま自治体病院のほとんどが赤字です。保険診療は「診療報酬」制度という国が決めている“公定価格”で運営されていますので、「医療費抑制」策=「診療報酬」削減策ということになります。病院の収入は減らされ、反対に支出は増えるので、当然“収益(=収入-支出)”は減少し、ついにはマイナス(=赤字)となるわけです。

一般の企業なら倒産するのですが、自治体病院のような公的病院は、地域住民のためにすぐに倒産させるわけにはいかないので、多額の補助金で赤字を補填して存続させることになります。ですから、何となく国民は、病院というところは倒産しないものだと思っています。ただ、自治体によっては財政的に赤字病院を支えることができなくなり、閉院や病院の統廃合をする自治体も増えてきました。民間病院は一般の企業と同じですので、赤字が数年続き、蓄えが枯渇すれば倒産し閉院します。地域住民が頼りにしていた地元の病院が突然なくなるわけです。

病院経営だけではありません。今盛んに行政が推進している「ジェネリック薬品」、「在宅」医療・介護、「地域医療ビジョン」策定、「地域包括ケアシステム」構築もみな根っこは「医療費抑制」です。 核家族化、独居化している日本で「在宅」ばかり求められでも国民は困るのではないでしょうか。

なんでもかんでも「医療費抑制」を大前提に医療政策を考えていくことはもう終わりにしてもらいたいものです。そうしないとまた近々「医療崩壊」が到来します。行政は必ず「財源がないから」と反論しますので、消費税率を30%以上まで上げてもいいと私は思います。決して行政に「医療費抑制」とはいわせない日本にしたいと私は思います。皆さんはどう思われますか?

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