#50:消費税率30%の日本
この文章は平成27年1月に発行された病院広報誌40号に書いた文章です。
消費税率30%の日本
この原稿を書いているのは平成26年11月下旬です。この10月に予定されていた消費税率アップが1年半延期され、年内の総選挙が決まりました。
消費税率アップ見送りは多くの国民が喜んでいると思います。しかし、医療機関の運営をしている私には単純に喜べない気持ちがあります。
皆さんも報道でご存じだと思いますが、国の借金は昨年9月時点で累計約1,039兆円あり、今も毎年45兆円ほどの赤字国債を発行しています。その原因が年金、医療、介護などの社会保障費の膨張であるとされ、特に医療は国から目の敵にされています。
現在進行形の「少子高齢化」は、平成37年にピークを迎え、それから「多死」時代に入ります。「多死」ということは、亡くなる前の医療の需要も増えるということです。これに対し厚生労働省は、平成30年を達成目標年としてさまざまな「医療費抑制」施策を現在打ち出してきています。「医療費抑制」策とは、医療機関にとっては「収入削減」策です。
そこにさらに医療の「安心・安全」のための新たな体制作りを毎年求められています。医療機関で備えなければならないもの、やらなければならないことが増えているにもかかわらず、そのために必要な収入は削減するというのですから、医療機関は“八方塞がり”です。
高齢化が進むことや医学が進歩することによって、今までと同レベルの医療を提供しているだけで毎年1兆円近く国民総医療費が増えていくことを、医療費の「自然増」と言います。「自然増」を減らすということは、国民が受ける公的医療の種類を減らすか、レベルを下げるか、自己負担率を上げることになります。今まで受けていて当然であった医療が受けられなくなるということです。それで本当に国民はいいのでしょうか?
こんなことを言うとビックリされるかもしれませんが、平成37年には消費税率を30%くらいまで上げないと、国の借金をこれ以上増やさずに日本の医療を現状維持することはできません。その理由を試算してみます。
今後10年で10兆円ほど「自然増」する国民総医療費の増加分に毎年の赤字国債45兆円を足すと55兆円になります。消費税1%あたり約2.5兆円の税収が見込まれていますので、55兆円を2.5兆円で割ると22% になります。現在の消費税率が8%ですから、22%を足した30%というのが平成37年にこれ以上国の借金を増やさないために必要な消費税率ということになります。それでも現在の借金は、そのまま残っています。
これが誰も言おうとしない日本の国家財政事情です。選挙で負けないために、政治家はこうしたことを言いません。でも、これが現実であることを正直に国民に説明し、国家存続のため、増税に対する理解を求めようとする、勇気ある政治家が現れることを祈っています。