#49:保険診療に対する「査定」
この文章は平成26年10月に発行された病院広報誌39号に書いた文章です。
保険診療に対する「査定」
前々号では「診療報酬制度」について書きましたが、これには「査定」と呼ばれる審査が伴います。病院が行った診療行為が適正だったかを評価するもので、公費負担の支払い側が不適切と判断すると、一度病院に支払われた公的負担金の払い戻し(返戻)が病院に要求されます。病院が不適切な診療をしないようにという抑止効果のある制度ですが、国が御旗を掲げる「医療費抑制」政策のためか、最近過度の「返戻」を要求されるケースが増えてきており、病院側では大変問題視しています。当院における例を2つ挙げます。
まず、内視鏡検査の時に使用することがある「鎮静剤」を全て“不必要”と判断されるようになったことです。内視鏡検査を受けたことがある方ならご存じでしょうが、個人差はあるものの、内視鏡検査はかなり苦痛を伴う検査です。患者さんによっては「全身麻酔で眠らせて」と希望される方もいます。鎮静剤投与は「静脈麻酔」と同等で、患者さんによっては完全に眠ってしまうこともあります。また、眠らなくても、少しボ~っとなるので、かなり楽に検査を受けることができます。患者さんの苦痛を少しでも軽減するためなので「過剰診療」ではないと思うのですが、最近これを全て“不適切”と拒否してきます。
「医療費が増えるので、患者がいくら苦しくても、何の薬も使わずに内視鏡検査をしなさい」ということです。
次は、造影剤を使用したCT検査の時の点滴薬使用を“不必要”と判断されるようになったこと。CT検査の精度を上げるため、“造影剤”という検査のための薬剤を点滴しながら撮影する場合がかなりあります。放射線科医の中には、「造影剤を使用しないCTだと病変の見逃しが多いので、やらない方がいいくらいだ」と言っている医師もいます。ただ、造影剤使用には多少のリスクがあります。代表的なものは造影剤アレルギーの問題と、腎臓の機能が悪い方の腎臓をさらに悪くするという問題です。当院ではこうしたことを防ぐために、造影剤を使ったCT検査の時には200mlの点滴を行っています。
これには、検査後すぐ帰宅させずに、造影剤アレルギーが起こらないかどうかを院内で確認する目的と、多少腎臓の悪い患者さんの検査後の尿量を増やし、体から速やかに造影剤を洗い流す目的があります。いわゆる「セーフティーネット」として造影CT時に点滴をおこなっているのです。
しかし、こうした「セーフティーネット」も“不必要”なこととして拒否されるようになりました。「患者さんの安全よりも、医療費削減の方が優先」ということです。こうした方針に「患者の視点」は反映されているのでしょうか?理不尽な「返戻」に対して病院側は「再審査請求」をして異議を申し立てますが、その主張は無視されるのが常です。
これが、マスコミがちっとも報道してくれない、日本の医療制度の姿です。皆さん、どう思われますか?