#48:在宅復帰率
この文章は平成26年7月に発行された病院広報誌38号に書いた文章です。
在宅復帰率
前回のYou&Iでは「7対1看護」について書きましたが、今回は「在宅復帰率」について書いてみたいと思います。
「在宅復帰率」とは、ある一定期間中の入院患者の退院先が転院ではなく自宅などに退院した割合をいいますが、今回の診療報酬改定では、7対1一般病棟75%以上、地域包括ケア病棟70%以上、療養病棟50%以上が各病棟の要件となり、かなり厳しい基準になりました。
「多くの患者さんを転院させるのではなく、自宅などに退院させなさい」と厚生労働省が病院に対して言っているということです。
平均在院日数の基準もまた短くなりましたので、これと相まって、病院がこぞって入院患者きんを早く自宅へ退院させるような動きが加速されることになります。
「介護保険」を作った時、介護が必要な患者さんの「社会的入院」のために病院の入院ベッドが占領され、医療費が増えることを嫌い、介護的な部分を医療から切り離そうとした厚生労働省ですが、施設での介護にも当然それなりのお金がかかるわけで、それも嫌った厚生労働省は、今度はさらに安上がりな「在宅」への誘導を始めました。
医療にしても介護にしても「在宅」の方が「入院」や「入所」よりお金がかからないことに着目し、そちらにどんどん誘導したいということです。
少子化、核家族化している日本ですから、在宅医療や在宅介護というのも家族の負担が大変なものになりますが、そんなことをお国はまったくお構いなしです。
こういうことをなぜかマスコミは十分に報道してくれません。時々新聞などに医療制度のことが書かれていますが、全くの「御用記事」で、国がやろうとしていることに対する批判的な記述は皆無です。こんなに理不尽な、ひどいことを国がやろうとしていても、非常にいいことをするように書かれており、医療現場に身を置き、医療制度の矛盾や弊害を肌で感じている我々としてはただただ驚くばかりです。
批判的精神が旺盛のはずの記者たちがなぜ国のやろうとしていることに対し反論しないのか理解できません。
あくまでも私の個人的意見ですが、消費税率を20%や30%に上げてもいいですから、医療や介護を含めた潤沢な社会保障費を確保して、病気になった時や老後のための蓄えを心配せずに国民が人生を楽しめ、いつどんな時でも安心して医療や介護を受けられるような社会の方が、今国が進めている「中負担、中福祉」(と言っていますが、現実には「低負担、低福祉」だと思います)国家よりもいいのではないかと私は思います。ただし、国民は税負担を嫌がってはいけません。
こうした国の方針に、医療や介護を受ける「国民の視点」は反映されているのでしょうか?皆さん、どう思われますか?