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#29:新型インフルエンザ対策に見る厚労省のお粗末

 この文章は平成21年7月に発行された病院広報誌19号に書いた文章です。

新型インフルエンザ対策に見る厚労省のお粗末

          院長 加藤奨一

我が国をパニックに陥れた新型インフルエンザ騒動も、最近落ち着きを見せています。5月末には神戸市でも「安心宣言」が出され、騒動の発端となった兵庫県立神戸高校、兵庫高校で授業が再開されました。また、新聞の掲載記事も最近激減しています。

今回の新型インフルエンザ騒動における厚労省の対応に多くの問題があったことが最近報道されるようになりました。5月28日には参議院予算委員会で新型インフルエンザの集中審議が行われ、厚労省の対応が批判されました。専門家は当初から指摘していたことです。

一つは、水際対策として大々的に報道された空港における検疫強化についての批判です。

テレビで検疫官たちがものものしい防護服で検疫している姿が報道されましたが、新型インフルエンザの潜伏期間は約7日間です。空港利用者の大部分が短期間の旅行や出張から帰国した人なので、ほとんどが潜伏期間中です。空港に着いた時に症状がなければ、検疫をすり抜けてしまいます。検疫強化による水際対策は医学的には妥当性がありません。世界中で検疫を強化したのは日本や中国などごくわずかの国でした。WHOは当初から、水際対策や検疫は無効として推奨していません。SARSの際も検疫は無効でした。

一方、日本の病院には本当の意味の隔離病棟や陰圧病棟がほとんどありません。一般の個室を隔離病棟として使用したら、空気感染で伝搬する強毒型新型インフルエンザが発生した場合、感染に弱い他の入院患者の多くに感染してしまいます。将来の強毒型新型インフルエンザ発生に対する対策も視野に入れるのであれば、各病院に隔離病室を整備することと、病院に押し寄せるであろう人々に対応するためのスタッフの増員を各病院ができるようにすることの方が大切です。

2つ目は、PCR検査の適応に関して厚労省が出した通知についての批判です。メキシコ・北米への渡航歴があり、簡易診断キットでA型陽性となった人にPCR検査の適応を限定したため、国内での蔓延を招いたとの批判です。5月8日に国内で最初に診断された患者に渡航歴はありませんでした。

また、「発熱外来」についても問題があります。「新型インフルエンザの患者は発熱外来へ、それ以外の患者は一般医療機関へ」との厚労省指示ですが、患者自身は新型インフルエンザか否か分からない状態で全ての医療機関を受診する可能性があります。それなのに厚労省は、発熱外来を開いていない一般医療機関に対して、物資・予算措置をしていません。

厚労省がやるべきことは、全ての医療機関が新型インフルエンザに対応できるだけの予算・物資を供給し、人員を増やせるようにすることです。長年の医療費抑制政策によって日本の病院の73%(自治体病院は91%)が赤字という状態では、新型インフルエンザ対応に必要な設備、物資、スタッフを自力で準備する余力など日本全国どこの病院にもないでしょう。

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