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#25:「後期高齢者医療制度」報道に思う

 この文章は平成20年7月に発行された病院広報誌15号に書いた文章です。

「後期高齢者医療制度」報道に思う

          院長 加藤奨一

 マスコミで「後期高齢者医療制度(長寿医療制度)」が大々的に取り上げられました。お年寄りの年金から保険料が天引きされることと負担率が増えることばかり論点となっていますが、この制度の一番大きな問題は、診療を受ける医療機関を患者さんが自由に選べるという、日本の医療制度の最もよい点であった「フリーアクセス」を制限しようという発想がその根底にあることです。

 もうひとつの問題は、「医療費抑制」のためなら何でもやっていい、という今の日本の医療政策のあり方です。今後日本では高齢者比率がどんどん高くなっていくので、若い人よりは病気になる頻度が高く、医療費がたくさんかかる高齢者の医療を制限し、医療費を抑制しよう、という元々の発想が問題です。

 勤務医不足が進み、病院の診療科閉鎖、救急医療縮小、廃院等の「医療崩壊」が進んでいることは皆さんもよくご存じだと思いますが、これは日本の医療政策の失敗によるものです。

 もう何年も前から、医師の中には「医療費抑制策」は止めなくてはいけない、そうしないと日本の医療は崩壊する、という警鐘を鳴らしていた方がいたのですが、最近までマスコミは一向にこうした意見を取り上げませんでした。

 「日本医師会」は開業医の収入を守ることに力を注ぐだけの圧力団体と世間では思われているようです。国民が安心して医療を受けられるように、必要な医療費はかけなくてはいけないというのがこうした論客達の言わんとすることですが、医療費を増やすことイコール医師の収入を増やすことといった誤解があります。医療費を抑制することイコール国民が受ける医療が制限されること、受けたい医療が受けられなくなることだと分かっている国民は少ないようです。

 自治体病院(県立病院や市立・町立病院)の93%は赤字だそうです。私立病院を含めた日本の病院全体の40%くらいが赤字だそうです。今後も日本から病院がどんどん減っていくでしょう。これは病院の「経営努力」不足だけでは説明できません。少ない医療従事者で昼も夜も休まず診療をしていても赤字になってしまうというのは、医療の価格設定が適正ではないということです。日本全国に十分な数の病院を維持し、地域医療を守るためには、これ以上医療費を抑制してはいけません。

 原油の高騰や日常品の物価上昇で家計が圧迫されている現在消費税引き上げを納得される方は少ないと思いますが、国の予算配分が簡単に変わらないなら、高齢化に伴い増え続ける医療費をまかなう方法を今すぐにでも考えなければいけません。消費税やたばこ税の引き上げも真剣に考えなくてはいけないでしょう。

 日本国民が「低福祉、低負担」を望んでいるなら話は別ですが、国民は常に最高の医療を受けたいと思っています。「高福祉」を望むなら「高負担」は受け入れなくてはいけません。国民が受けることの出来る医療を制限して医療費を抑制するのか、十分な医療ができるように医療費を適正に増やしていくのか、そろそろ国民的議論をする時期が来たのではないでしょうか。

 今回「国民の声」で後期高齢者医療制度についてマスコミ報道が盛んにされ、政治家や官僚が制度の見直しを始めたことは大変意義のあることだと思います。

 医療政策、医療制度の中にはまだこうした矛盾に満ちたものがたくさんありますが、国民はよく知りません。制度が複雑すぎて難解なので、マスコミも報道しません。今回のような大ウエーブが他の問題についてもどんどん起こり、「国民の声」で日本の医療制度が良くなっていくことを期待しています。

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