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#22:“患者の品格”

 この文章は平成19年7月に、病院広報誌第11号のオピニオンに書いた文章です。
 医療を「サービス業」と考えるようになり久しくなりますが、その弊害が最近顕著になっています。「医療は本当に一般の“サービス業”と同じなのか?」という問いに対して私見を書いてみました。

“患者の品格”

          院長 加藤奨一

 先日病院広報の仕事をされているある方の講演を聴いていて心に残ったスライドがありました。

  昨年藤原正彦さんが著した「国家の品格」という本がベストセラーになりましたが、その本の中にこんなことが書かれています。
「“子ども中心”が、日本をダメにした。親や教師が中心になって教育をやりなおすべき・・・」
これが“教育の品格”だとすると、
「“患者中心”が、医療をダメにした。医療の担い手が中心になって医療をやり直すべき・・・」(“医療の品格”)

 さらに、そのスライドは、
「“人にモノを頼む”ということはどういうことか。まして、“命を託す”ということは・・・」(“患者の品格”)
と続いていました。

  今の日本にあって医療の現場に身を置く者としてはとても考えさせられる言葉でした。
 「患者の権利を擁護する団体」からは非難囂々、苦々しく思われるかもしれませんが、医療従事者からは拍手喝采が起こるのではないでしょうか。日本の医療従事者達は皆「今の日本の医療は何かおかしい。何か狂っている。」と感じています。

  「医療は“サービス業”である」と言われるようになって久しくなりますが、この短絡的な考え方が日本の医療をおかしくしてしまったのではないでしょうか。医療は飲食業や販売業と同じ“サービス業”ではないと私は思います。「患者様」と呼ぶことに今でも私は違和感を持ちます。
 家庭でいただくものと少し違ったものを食べよう、とか、もっと便利なもの、きれいなものを所有しよう、というのが、普通の“サービス業”に顧客が期待するサービスです。言い換えれば、“普通”よりよい状態、“普通以上”の状態をお金で買うのが一般の“サービス業”です。

 一方、医療はどうでしょうか。患者さんはある日突然、当然だと思っていた“健康”という“普通”の状態から“病気”という“普通以下”の状態に突き落とされ、医療機関を受診します。こうした状態を“健康”という“普通”の状態に近づけようとするのが医療です。医療従事者はそうした仕事をすることで「自分の存在が社会に役立っている。」と実感できるから頑張っているのです。“お金儲け”という動機だけで医療に就いている人はほとんどいないと思います。

 しかし、どんなにすばらしい医療がなされても“普通以上”にはしてあげられないのが“医療”です。最高の結果が得られても“普通”までであり、通常は、多少の障害や生活の制限が残ったりして、 “普通以下”の状態までにしか戻すことができません。そこが普通の“サービス業”との決定的な違いです。同じ土俵で論じることはできません。

 最近は「病院に入院しているのに、何で病状が悪化するんだ。医療ミスだ。」などと責められることもあります。現代医学の粋を尽くしても、病気によっては病状が悪化していくこともありますし、最悪の場合命を奪われることもあります。こうした場合、「病気が悪くなったのは病院のせいだ。」と言われることは、医療従事者にとっては“逆恨み”や“言いがかり”としか受け取れません。悪いのは病院や医者ではなく“病”なのです。

 現代の患者さんやそのご家族にこうした事をぜひ理解して欲しいと思います。
医療を受ける人と医療を提供する人との絆は「一緒に病と闘い、健康を取り戻そう。」とスクラムを組む“パートナーシップ”です。「金を払っているんだから、私のわがままは全て聞け。」という“サービス業”ではないのです。

今回はこんなことを皆さんに伝えてみたいと思い、筆を執りました。

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