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#21:勤務医不足

 この文章は平成19年4月に、病院広報誌第10号のオピニオンに書いた文章です。
 現在社会問題となっている勤務医不足についてまとめてみました。

勤務医不足

          院長 加藤奨一

 このコーナーでここ何回か書いてきた「勤務医不足」についてもう1度おさらいをしてみたいと思います。今や「勤務医不足」は、産婦人科や小児科だけでなく全診療科に共通の問題です。また、地方だけでなく都市部でも起こっている問題です。

 勤務医が不足した原因としては以下のようなことが考えられます。

(1)医療の高度化による専門分化:
医学は進歩し、医療は高度化し、昔のように一人の医師が全ての疾患の診療に当たることが難しくなりました。狭く深く診療できる各分野の「専門医」がたくさん揃っていなければ、「病院」というところで患者さんに満足してもらえる医療を提供することが困難になっています。

(2)患者さんやご家族への説明時間の増加:
医療にはインフォームド・コンセント(「説明と同意」)が大切になっています。昔のように「何も聞かずに俺に任せろ。」という診療スタイルは通用しません。ひとつひとつの診療に多くの説明時間が必要です。したがって、ひとりの医師が単位時間あたりに診療できる患者さんの数はどんどん減っています。多くの医師が必要です。

(3)診療外業務の増加:
病院には、医療ミスを少なくするための医療安全対策委員会等の多くの診療外活動が求められています。これは通常の日常診療業務に上乗せされた業務ですので、当然全体の仕事量も増し、多くの医師が必要になります。

(4)女性医師の増加:
年々女性医師の比率が増加しています。今の日本の病院勤務医の労働環境では、女性医師が結婚し子供を持ちながら勤務医を続けることが困難です。したがって、女性医師の中にはある年齢以降は病院勤務医として働けなくなる人がたくさんいます。総医師数は増えても、フルに働ける勤務医の数は減少しています。

(5)勤務医の過酷な労働環境や医療紛争:
勤務医には40時間連続勤務などざらで、夜勤の翌日も丸1日通常勤務の病院がほとんどです。歳をとると体力的に勤務医を続けることがきつくなり、開業する方が多くなります。また、診療の結果が悪ければ、すぐにクレームや医療訴訟の危険にさらされます、勤務医を「努力が報われない仕事」と感じることも、勤務医が辞めていく大きな原因です。

(6)新医師臨床研修制度の導入による大学医局入局者の減少と、これに伴う、医師の派遣システムの崩壊:
新医師臨床研修制度のスタートとともに、医学部卒業後、大学医局に入局する医師が極端に減りました。これにより、関連病院へ医師を派遣するという医師派遣センター的役割を果たしていた大学医局の機能が低下しました。


 以上、勤務医不足という問題には様々な要因が複合的に関係していますが、これを解決する唯一の方法は、諸外国より圧倒的に少ない日本の「医師の総数を増やす」ことです。こうした方向に日本の医療政策が方向転換しない限り今のこの状況は変わらず、今後も悪化の一路をたどると思います。

 皆さんが被る被害がさらに大きくなる前に、「国民の声」で政治・行政を動かすことが必要です。

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