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#19:医療の不確実性と、医療不信

 この文章は平成18年10月に、病院広報誌第8号のオピニオンに書いた文章です。
 医療の「不確実性」ということに関して、医療を受ける側と医療を提供する側に認識の違いが大きく、こうしたことが「医療不信」につながっているのでは、という、乳がんになった新聞記者の方の文章を紹介しました。

医療の不確実性と、医療不信

          院長 加藤奨一

 今回は、新聞記者であり、乳癌になってしまった女性の方が、新聞に書かれていた文章を紹介したいと思います。以下です。

 「医療は万能ではなく、不確実なものだ」――。間もなく4年になる乳がんの闘病生活を通じて、この言葉の意味がわかるようになった。

 先月のCT検査で、わきの下のリンパ節の腫れが見つかった。乳がんが最初に転移する場所だ。ただ、私の場合、乳房再建で異物を体内に入れているので、炎症の可能性もある。

 「がんの転移か、炎症か」。診察室で医師と一緒に画像を凝視しながら息をのんだ。半年前のCT画像にも小さな影が写っていたが、今回は明らかに数が増え、大きくなっている。だが、がんかどうかはわからない。超音波検査や腫瘍(しゅよう)マーカーは異常なしだが、がんでないことの証明にはならない。白黒をはっきりさせるには手術で細胞を摘出して調べる必要があるが、それは体への負担が大きい。結局、「今は何とも言えない。もう少し様子を見よう」ということになった。

 医療は万能ではない、ということは、前から知っているつもりだった。それでも、現代の医療技術なら、がんかどうかの判別くらいすぐできて、速やかに治療に入れるものだと思っていた。「医療の限界」を実感したのは、患者になってからだ。

 きっかけは、最初の手術から半年で見つかった局所再発だった。「取り残しとか、医療ミスじゃないの」と友人に言われ、不安になって、主治医以外の医師の診察を受けたうえ、取材先の医師にも意見を聞いて回った。彼らは、乳房全摘でもすべてのがん細胞を取り切れない場合もあること、がん細胞が増殖して大きくならないと検査でも発見できないこと、標準治療がすべての人に効くかどうかは分からないこと――など、人間の身体の複雑さや医療の難しさを、とことん説明してくれた。

 延べ10時間は超える対話を通して、「現代医療も不完全で分からないことだらけ」ということを認識できた。同時に、自分の乳がん治療にも100%はないということを、つらいけれど受け入れざるを得なかった。

 患者は「医療は万能だ」と思いがちだ。それが、うまくいかなかった場合に医療不信につながる。知人の○○・○○病院医師は、「医療の不確実性と限界を理解してもらうことが、医師と患者の不毛な対立を防ぐのに役立つ」と言う。

 その通りだとは思うが、患者には、「不確実性」についての説明を受ける機会が少ない。そこに「不信」の根がある。


 以上です。医者には「当たり前」の話でも、患者さんには違うのだと思います。この「溝」をなんとか埋めなくてはいけないと思います。


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