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#07:がん(癌)について~特に胃癌と大腸癌について~

 この文章は、平成 15 年2月に古河東ロータリークラブで、4月に古河倫理法人会で、医療講演をしたときの講演内容の抄録です。
 がん(癌)について、世間でよく誤解されていることを正し、医学的に正確にがん(癌)を理解してもらおうという意図でお話をしました。

がん(癌)について
~特に胃癌と大腸癌について~

友愛記念病院

加藤奨一

 日本では 1950 年頃から癌による死亡数が増加し、 1980 年頃には死亡原因の第1位に躍り出、現在では他の死亡原因(脳血管疾患や心疾患)の2倍を占めています。
 しかし、癌治療は年々進歩し、現在では一部のたちの悪い癌を除いて癌全体の6割~7割以上が手術などの治療により完治し得ます。昔考えられていた「不治の病」ではなくなりました。

 まず、癌に関わるいくつかの言葉の説明をします。

 「腫瘍」とは“自律性増殖(勝手にどんどん発育する)の能力を持った病変”と表現でき、「良性腫瘍」と「悪性腫瘍」に分けられます。「悪性腫瘍」=「がん(癌)」です。
 良性腫瘍と悪性腫瘍(癌)の大きな違いは、良性腫瘍よりも自律性増殖能が旺盛(大きく育つ速度が速い)で、「浸潤(癌と隣り合わせの組織にしみ入るように入り込んでいくこと)と転移(癌が発生した臓器とは離れた臓器に飛び火すること)」の能力を持ち、個体を「悪液質」(栄養を横取りして、癌が発生した個体に栄養が行かなくなり栄養失調になり、体力が弱っていくこと)に陥らせ、死に至らしめることです。
 また、癌には、上皮性細胞由来の「癌腫」(肺癌、乳癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌、膵臓癌、胆嚢癌、子宮癌、卵巣癌、喉頭癌、咽頭癌、舌癌など)と非上皮性細胞(間質細胞)由来の「肉腫」(骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、線維肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫など)と「造血細胞由来の癌」(白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫 など)が病理学的に分けられており、圧倒的に「癌腫」の方が発生率が高いです。
 ちなみに、友愛記念病院では、年間で 200 人以上の患者さんが癌の手術を受け、その中でも胃癌( 80 例以上)大腸癌( 90 例以上)の占める割合が高いですが、手術以外の治療のため入院する癌の患者さんの総数は年間 500 人近くになっています(自慢、宣伝になって恐縮ですが、癌治療に関してはこの地域で最も治療経験の多い病院だと思います)。

 次は、胃癌と大腸癌に関して少しお話をします。
 胃癌とは、胃の粘膜から発生した悪性腫瘍です。50歳台後半~60歳代が最多で、男性に多く、日本人に最も多い癌です。最近は死亡率は減少していますが、罹患率(癌になる率)は減っていません。早期胃癌は無症状のことが多いですが、胃部不快感や胸やけ、食欲不振があることもあります。
 胃の壁は内側から外側にかけて粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜と何層にもなっており、胃癌は内側の粘膜から発生し、発育とともに粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜とその深さを増していきます。
 胃癌の転移の仕方には、播種性転移(胃の壁の外側に癌が露出し、腹膜に癌細胞がバラバラとこぼれて生着する)、血行性転移(血液の流れに乗って癌細胞が胃と離れた臓器に運ばれ、そこで生着する)とリンパ行性転移(胃の近くのリンパ節から次々に遠くのリンパ節に癌が入っていき生着する)の3通りがあります。
 最初の2番目の深さの層までの癌であれば、転移を起こすことがほとんどないため、「早期癌」と呼ばれます。一方、3番目の深さの層以深の癌は、その深さに応じた転移の可能性が出てくるので「進行癌」と呼ばれます。
 「早期胃癌」の治る確立は現在限りなく 100% に近づいており、なにはなくとも早期発見が大切です。特に無症状の時に健康診断で発見される癌は治る可能性が高いので、1年毎の内視鏡検査による健診がベストと考えられています。
 胃癌の原因は、従来様々なことが言われていましたが、「ピロリ菌」の持続感染がその原因の多くを占めるのではないかと最近では言われています(残念ながら、日本ではまだ、胃潰瘍や十二指腸潰瘍でない慢性胃炎の患者さんへの胃癌予防のためのピロリ菌除菌治療は保険診療として認められていません)。

 次は大腸についてです。
 「大腸ポリープ」は大腸に出来る隆起性の病変(でっぱったもの)ですが、胃のポリープ(胃には「過形成性ポリープ」という腫瘍ではないポリープが多い)と違って「腺腫」という良性腫瘍が8割を占めます。そして、大腸では「腺腫」が長年かけて大腸癌になることが分かっているますので、発見されたら内視鏡的に切除することが望ましいのです。
 大腸癌は、肛門に近い直腸や S 状結腸に発生率が高く、その症状の代表的なものは血便です。
 大腸癌にも胃癌と同様にその深さによって「早期癌」「進行癌」の区別があり、やはり進行度によって治る確率は変わります。「早期大腸癌」は切除術によってやはりほとんどが完治するので、定期健康診断による早期発見が鍵です。大腸内視鏡検査は2年ごとに受けることが推奨されています。

 胃癌、大腸癌いずれにしろ、あるいは、今日お話ししなかった他の臓器の癌も、早期発見が大切です。「早期癌」の状態で早期発見できれば、癌であろうとも切除術によりまず治ると考えられています。
 「癌」は今や決して「不治の病」ではありません。そのためほとんどの病院、医師が病名を「告知」をする時代になっています。疑問な点があれば、遠慮せず医師に質問して下さい。最近の若い先生はどんな質問に対しても親切に答えてくれるはずです(少なくとも友愛記念病院では全ての医師にそのような対応を指導しています)。

(平成15年2月古河東ロータリークラブ、4月古河倫理法人会での医療講演)

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